腹部大動脈瘤

1.腹部大動脈瘤とは

 

 大動脈は、心臓から直接つながっている最も太い動脈です。そこから血管の枝を出して各臓器に血液を供給しています。腹部大動脈は、胸部と腹部と境界である横隔膜下より下の大動脈を指します。腹部大動脈は通常2cmくらいの血管ですが、何らかの原因で拡大して3cm以上になると腹部大動脈瘤といいます。

2.原因

 

 大動脈瘤の原因の多くは、動脈硬化により動脈の壁が弱くなるためといわれています。その他には炎症や感染によるものなどがあります。動脈硬化性の動脈瘤は、高血圧、高脂血症、喫煙が危険因子と言えます。特に喫煙は破裂にも関連するため、禁煙が重要です。

3.症状

 

 通常は無症状で徐々に拡大していきます。痩せている方だと、腹部に拍動するこぶを触れることがあります。腹部大動脈瘤は他の病気で腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に偶然に発見されることがほとんどです。拡大し、破裂するときには、強い腹痛や腰痛が突然起こります。出血し、ショック状態になると意識を失うこともあります。

4.診療と治療の流れ

 

 大動脈瘤が破裂すると、70~80%で生命に関わると言われています。そのため、治療は無症状でも主に破裂死を予防するために行います。

 

 腹部大動脈瘤は、5cm未満では破裂する可能性は少なく、外科で超音波やCTなどで数ヶ月~1年に1回経過を見ていきます。5cm程度になると年間約5%の破裂する可能性がでてくるため、手術の適応となります。薬物などの内科的な治療は現在のところ確立されていません。

 

 手術は開腹人工血管置換術とカテーテルによるステントグラフト内挿術の2通りがあります。

【開腹人工血管置換術】
  

 腹部を、臍を中心に上から下まで約20cm前後切開します。動脈瘤の前後で動脈を遮断して、動脈瘤を切開して人工血管に置換します。全身麻酔、開腹、大動脈の遮断、出血量などステントグラフト内挿術に比べると手術の体に対する負担がやや大きいことがデメリットです。しかし、手術の歴史は長く、一度手術をすると再手術の危険性はほとんどなく安定した長期成績が得られています。

【ステントグラフト内挿術】
 

 両鼠径部(足の付根)を数cm切開して、大腿動脈を露出します。そこからステントグラフトという、金属の骨格(ステント)が取り付けてある人工血管を動脈瘤の前後にまたがるように留置します。そうすることで、血流がステントグラフト内を通るので、動脈瘤に圧力がかからなくなり、破裂を予防します。(動脈瘤は血栓で固まり、なくなりません)手術の身体への負担が少ないことがメリットです。

 

 デメリットとしては、その形状によりすべての動脈瘤に対して手術ができるわけではないことや、術後も何らかの原因で動脈瘤内に血流が流入すること(エンドリーク)により動脈瘤が拡大してくる可能性があることがあります。エンドリークには、いろいろな原因があり、ステントグラフトがずれてきて動脈との隙間が生じて起こるものや、動脈瘤から出ていた動脈の枝からの逆流によるものなどがあります。動脈瘤が再度拡大することもあるため、長期的に経過観察が必要で、状況によって再治療を要することがあります。

 

 私どもは、開腹手術、ステントグラフト内挿術ともに国内トップレベルの豊富な治療経験があります。治療方法は、それぞれ手術法のメリット・デメリットを考慮して、動脈瘤の形状、患者さんの年齢、心疾患、閉塞性肺疾患や脳血管疾患などの手術リスクなどによって総合的に決定します。

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