肝腫瘍

当班では主に肝臓にできる悪性腫瘍に対する治療を行っております。これには肝臓自体から癌が発生する「原発性肝癌」と、他の臓器に発生した癌が転移してできる「転移性肝癌」があります。肝臓の悪性腫瘍に対する肝切除は年間40-50例、過去10年間で約300例以上の肝切除を行ってきました。

肝切除とは

肝切除は癌に冒された肝臓の部分を含めた領域を切除する方法です。肝臓の機能が比較的保たれている患者様に選択される治療法です。手術適応になるかどうかは腫瘍の状態に加え、肝予備能を予測して切除量を決定します。メリットとして局所の根治性が高いことがあげられます。手術方法としては①開腹肝切除と②腹腔鏡下肝切除があります。

①開腹肝切除

開腹肝切除は大きな傷が必要になりますが、あらゆる処置を直視下に確実に行うことが可能であり、不意な出血にも対応しやすいために、複雑な肝切除や大きい腫瘍の切除の多くは開腹手術をおこなっております。当チームでは、肝移植の知識、技術を生かし、他施設で手術困難な脈管浸潤のある進行癌症例の手術も数多く行っています。

【大腸癌肝転移に対する中央二区域切除+尾状葉切除】

②腹腔鏡下肝切除

腹腔鏡下肝切除は小さな傷で腫瘍を切除することが可能であり、当班では2010年より導入しております。これまでに150例以上に施行していますが、創部痛の軽減のみならず、出血量の軽減、早期の回復がみられ、過去3年間の術後平均在院日数は6日と良好な結果が得られております。比較的シンプルな肝切除から、徐々に複雑な肝切除に適応をひろげており、現在では肝腫瘍の肝切除の半分以上を腹腔鏡で行っております。またICG蛍光法を用いたナビゲーション手術を導入しており、腫瘍の同定、過不足のない切除範囲の決定に有用です。また2022年より保険収載されたロボット支援下肝切除も施行可能です。現在のところ、肝切除術の全症例が腹腔鏡やロボット支援下で行えるわけではありませんので、その適応に関しては担当医にご相談ください。

【腹腔鏡下前区域切除におけるICG蛍光法】

【疾患】
I. 原発性肝癌
II. 転移性肝癌
III. 肝良性腫瘍
IV. 脾機能、門脈圧亢進症

I.原発性肝癌

①どんな病気か?

原発性肝癌は、日本における罹患率は第4位、死亡率は第5位の癌であり、肝細胞に由来する肝細胞癌と、胆管上皮に由来する肝内胆管癌に分けられます。肝細胞癌は原発性肝癌の9割以上を占める癌であり、C型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎を背景として発癌する人が多数です。最近では、ウイルス性肝炎の治療が劇的に進歩したため、肝炎ウイルスとは関係のないアルコール性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を原因とする肝細胞癌が徐々に増えてきています。

②どんな治療法があるか?

肝細胞癌の治療には外科的な肝切除、肝臓の腫瘍に針をさして治療を行う経皮的局所療法(エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法)、カテーテルによる治療(肝動脈化学塞栓療法)、化学療法などがあります。その他に、放射線療法や肝移植*などが施行されることもあります。当班で主に扱う治療法には肝切除と肝移植があります。がんの状態や患者様の体調、肝機能により選択できる治療が異なり、適宜肝臓内科とカンファレンスで治療法を検討し、単独あるいは組み合わせて治療を行います。

*肝細胞癌における肝移植: 肝細胞癌でも、個数や大きさ、遠隔転移の有無により肝移植の適応となることがあります。詳しくは肝移植のページをご覧ください。

肝内胆管癌に対してはステージに応じて術式の検討を行っております。また根治性の向上のため術前および術後化学療法を導入しております。治療方針は消化器内科との合同カンファレンスで決定しております。肉腫など稀少癌に対しては腫瘍内科とのカンファレンスで方針を決定した上で、肝切除を行っております。

II.転移性肝癌

肝臓には様々な癌が転移します。転移性肝癌に対しては、原発の病変の特性を十分に検討し、病変を取り除くことで患者さんへの治療効果が期待される場合に肝切除が選択されます。転移性肝癌の多くを占める大腸癌の肝転移の場合、化学療法や分子標的薬の進歩により、肝転移巣が切除可能となれば肝切除を行うことが推奨されております。当初切除不能と診断されていても化学療法が奏功することで切除のチャンスが出てくる場合があります。また切除可能であっても再発の可能性を抑えるために、化学療法を組み合わせることがあります。

治療方針は、当班、大腸外科、腫瘍内科にて大腸癌カンファレンスを月2回行い、最適な治療方針を個別に決定しております。手術方法に関しては腹腔鏡下肝切除を基本としておりますが、それぞれの病変に応じた最適な術式を提供いたします。

III.肝良性腫瘍

良性腫瘍は基本的には経過観察で済みますが、大きさ、場所により破裂の危険性があるとき、悪性腫瘍との区別が困難な場合に手術の適応となります。 代表的なものとして、肝血管腫、肝腺腫がありますが、その他にも稀な疾患として、血管脂肪腫やリンパ管腫などの切除も行っています。

IV.脾機能、門脈圧亢進症

門脈圧亢進症とは、文字通り門脈の圧が亢進(高くなる)ことにより起こる疾患です。原因としては肝硬変が多く、そのほかに特発性門脈圧亢進症やバッドキアリ症候群などがあります。門脈圧が亢進すると、門脈に流入する血管の圧も上昇し、食道や胃に静脈瘤ができます。また、脾腫がみられるようになると、脾機能亢進(白血球減少、血小板減少)をきたすことがあります。食道や胃の静脈瘤は破裂すると命に係わりますので、内科的治療が困難になった症例では、脾臓摘出術や、胃と食道周囲の血管を処理するHassab (ハッサブ)手術が行われることがあります。

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