膵動静脈奇形
膵動静脈奇形(AVM)に対する自家膵島移植
1. 膵動静脈奇形(AVM)について
通常、動脈を流れてきた血液は細い毛細血管を経てから静脈に流れます。膵AVMは、膵臓の内部で動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接交通(シャント)することにより、異常な血管の塊が膵臓にできるまれな病気です。
2. 膵AVMの症状と従来の治療法
症状は胃や十二指腸などからの消化管出血や腹痛が多く、急性膵炎・慢性膵炎を合併することがあります(急性膵炎、慢性膵炎の項目参照)。膵AVM自体が膵炎の原因と考えられているため、投薬により一旦膵炎の症状が治まってもくり返し悪化する可能性があります。膵炎をくり返す場合、治療法は異常血管を含んだ膵切除になりますが、異常血管が膵全体に見られる場合、止むなく膵臓全てを摘出する(膵全摘術)を選択せざるを得ないことがあります。膵臓は食物の消化を行う臓器であるとともに血糖のコントロールを司る臓器でもあるため、膵全摘後は非常に不安定な糖尿病になります。術後の重症糖尿病を予防するためにわれわれは自家膵島移植治療を進めています。
<東北大学膵島移植プロジェクト>
http://homepage2.nifty.com/islets/access.html
3. 自家膵島移植について
膵臓には血糖のコントロールを行う膵島という細胞成分があります。膵島移植はこの膵島を膵臓から抽出し患者さんに移植する、糖尿病の治療法です。そして良性の病気でありながら、止むなく膵全摘を行った患者さんに自分の膵島を戻す治療を自家膵島移植と呼びますが、これにより術後の重症糖尿病を抑えることが可能です。自分の組織を移植するため、拒絶反応の心配は無く、免疫抑制剤を内服する必要もありません。今よりおよそ30年前にアメリカで始められて以来、約300例に行われてきましたが、日本では記録上は4例の報告に留まっています。ほとんどが慢性膵炎の患者さんに行われてきましたが、膵AVMも良い自家膵島移植の適応疾患になります。本学では2010年に本邦5例目となる自家膵島移植を膵AVM患者さんに行い、現在のところ非常に良い血糖値のコントロールが得られています。この治療は臨床試験(プロトコール番号2010-321)であり、自家移植にかかる費用(膵島を膵臓より分離抽出するのに必要な費用)は大学の負担になります(校費)。当科では膵全摘が必要な膵AVMに対し、移植外科、糖尿病代謝科、消化器内科と協力し積極的にこの治療を進めています。
対象疾患
- 胆管癌
- 胆嚢癌
- 肝内胆管癌
- 肝癌(原発性・転移性)
- 肝血管腫・MFHなど
- 十二指腸乳頭部癌
- 肝内結石症
- 胆嚢・胆管結石症
- 先天性胆道拡張症、膵胆管合流異常
- 膵臓癌
- IPMN、MCN、その他の嚢胞性膵腫瘍
- 膵神経内分泌腫瘍
(インスリノーマ、グルカゴノーマなど) - 膵動静脈奇形
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 脾臓疾患(ITP、脾悪性リンパ腫など)
- 腹腔鏡下膵体尾部切除術または核出術