東北大学病院 肝胆膵外科・胃腸外科

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診療案内

「腹腔鏡下膵体尾部切除術または核出術」 についての説明

1.腹腔鏡下手術とは

腹腔鏡下手術とは、お腹に開けた小さなキズ(創)=穴から内視鏡を挿入しモニターに映る画面を見ながら行う手術のことをいいます。1981年にドイツで行われた腹腔鏡下虫垂切除術が内視鏡下手術の始まりと考えられ、1985年にはドイツでMuheにより腹腔鏡下胆嚢摘出術 が行われました。

この腹腔鏡下胆嚢摘出術は1990年に日本に導入されましたが、現在では胆嚢摘出術の約80%が腹腔鏡で行われていると推測されます。その後1991年にアメリカで腹腔鏡下大腸手術が、同年胃癌に対する腹腔鏡下手術が日本で始まっています。

腹腔鏡下手術は、胆嚢摘出術以外にも大腸手術、胃切除術、脾臓摘出術などが保険診療の対象としてすでに認められており、2010年度からは腹腔鏡下肝部分切除術が保険適応として認められました。腹腔鏡下手術の利点は、手術の傷跡(瘢痕)が小さいこと、そしてそれに伴う術後疼痛の軽減、手術のダメージが少ないことによる早期の回復などです。特に働き盛りの方や若い女性の場合には、腹腔鏡下手術の利点がより大きくなると考えられています。

2.膵臓疾患に対する腹腔鏡手術

膵臓疾患に対する腹腔鏡手術は1993年にGanierが腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術を報告して以来、徐々にその報告例は増えてきています。しかしながら適応疾患の発生頻度が比較的少ないことから、広く普及するに至っていません。そのため、当初日本国内では保険診療として認定されておらず、東北大学を含めたごく一部の施設でのみ施行可能な先進医療の一つとして認められていました。その後、2012年4月の診療報酬改定に伴い一般保険診療でも認められる手術術式になりましたが、技術に習熟した施設は全国でも未だ少ないのが現状です。

3.腹腔鏡補助下膵体尾部切除術・膵腫瘍核出術の適応疾患

本手術の適応疾患は、膵臓の良性および低悪性度腫瘍と考えており、いわゆる膵臓癌は開腹による手術をお勧めしています。また、腫瘍の存在部位や大きさにより術式が変わります。当科での手術適応疾患は下記の通りです。

<腹腔鏡補助下膵体尾部切除術>

存在部位:膵体部もしくは膵尾部
(膵臓の左側)
大きさ:5cm以下
適応疾患名:膵管内乳頭粘液性腫瘍(分枝型のみ)、粘液性嚢胞性腫瘍、漿液性嚢胞性腫瘍、神経内分泌腫瘍など

<腹腔鏡補助下膵腫瘍核出術>

存在部位:膵臓の表在にある腫瘍
大きさ:2cm以下
適応疾患名:神経内分泌腫瘍(インスリノーマ他)

4.腹腔鏡補助下膵体尾部切除術

左上腹部を中心に1cm程の小切開を約5カ所に置き、トロッカーを挿入します。二酸化炭素を腹腔内に送気し気腹を行った後、腹腔鏡というカメラを挿入し各トロッカーから挿入した鉗子を用いて手術を開始します。膵臓は腹腔内で後腹膜(背中側の膜)に張り付いている臓器であるため、膵臓を脾臓とともに後腹膜から剥離した後、脾動脈、脾静脈という膵臓左側へ向かう血管を自動縫合器にて切離します。最後に膵臓の左側を脾臓とともに切離し回収バッグに入れ、小切開の一部を5cmほどに開大し切除された膵臓と脾臓を取り出します。膵臓の断端にドレーンという管を留置して手術を終了します。

5.腹腔鏡補助下膵腫瘍核出術

腫瘍存在部位によっても異なりますが、腹腔鏡補助下膵体尾部切除術と同様に、上腹部を中心に1cm程の小切開を約5カ所に置き、トロッカーを挿入します。腹腔内を二酸化炭素にて気腹し、腹腔鏡を挿入し各トロッカーから挿入した鉗子を用いて手術を開始します。膵腫瘍の位置を術中超音波検査にて確認した後、腫瘍に針をかけ牽引しつつ、腫瘍を周囲臓器および膵臓から剥離していきます。最後にトロッカーから腫瘍を取り出し、腫瘍切離部にドレーンを留置して手術を終了します。

6.予測される合併症とそれに対する対処法について

1)開腹手術への移行の可能性
腹腔鏡下で止血不可能な出血や他臓器の損傷、および高度な癒着などにより手術時間が大幅に延長される場合は開腹手術へ移行する可能性もあります。また、術中所見で膵癌などの悪性疾患の可能性が危惧された場合も開腹手術へ移行します。開腹手術へ移行した場合は、通常の保険診療とみなされますので、先進医療としての費用31万3900円は頂かないこととなります。

2)術後膵瘻,術後出血
膵臓を切離した部分、もしくは腫瘍を膵臓から剥がしたところから膵液が漏れ出してしまうことがあります。このことを膵瘻(すいろう)と呼びます。通常膵瘻が起きた場合には、食事を止め膵酵素阻害薬などを点滴する保存的治療を行いますが、膵液は体の主成分であるたんぱく質を消化する働きがあるため、自然に治癒しない場合もあり、長期にわたり創部処置が必要であったり再手術が必要であったりする可能性もあります。また非常に稀ですが、膵液により動脈が消化された場合には動脈瘤が形成され、動脈瘤破裂・腹腔内出血の危険性も出現し、腹腔内出血がおきた時には輸血、動脈塞栓術や緊急手術が必要となることもあります。腹腔鏡手術による重篤な膵瘻の報告例は現在のところありませんが、リスクと不利益に関しては開腹手術と同等と考えられます。

3)創部感染および腹腔内膿瘍
傷口が化膿すること(創部感染)や、手術後腹腔内に膿が貯まること(腹腔内膿瘍)をいいます。創部感染の場合は、創部を開放し膿を体外に出す必要があり、しばらく創部処置に時間がかかることもあります。腹腔内膿瘍の場合は抗生剤投与による保存的治療を行うのが第一選択となりますが、状況により腹腔穿刺(針を刺して膿を体外に導出すること)をすることもあります。これら感染性の合併症に関しては、開腹術と比べ腹腔鏡下手術の発症頻度が低いと考えられています。

4)術後腸閉塞症
手術を行うことにより腸の動き(蠕動:ぜんどう)が弱くなり、術後お腹が張ったり、時には吐き気・嘔吐が出現したりすることをいいます。また、術後しばらく経過してから、手術による癒着で同様の腸閉塞を起こすこともあります。通常は絶飲食のみで改善しますが、場合により鼻からチューブを挿入し胃や腸管内容を吸引する必要があることもあります。更に再手術を必要とする場合もあります。腸閉塞に関しては、開腹術と比較すると腹腔鏡下手術の方が、発症率が低いと言われています。

7.腹腔鏡補助下膵体尾部切除術(又は腫瘍核出術)の実際

平成21および平成22年に当科にて施行した腹腔鏡下膵体尾部切除術又は核出術症例は11例で、平均手術時間は200分、平均出血量は76mLと通常の開腹手術と同等の手術時間であり、出血量は少ない傾向にありました。術後の経過は、手術翌日(第1病日)にICUから一般病床に転棟し、飲水開始となります。第2病日に食事開始となっています。ドレーン抜去は術後平均5.3日目に行っており、平均で術後14.2日目に退院されています。術後合併症として、GradeBの膵瘻(臨床的に症状のある膵瘻)を1例(9.1%)、肝機能障害を1例(9.1%)に認めましたが、いずれも保存的治療(外科的処置を行わずに薬剤・安静などで治癒させる方法)で治癒しており、再手術例は1例もありませんでした。

他院で膵腫瘍による手術の必要性を診断された方は、術式適応などのご相談を含め、東北大学病院 肝胆膵外科まで紹介状をお持ちになって予約をお取りになりお越しください。外来日は毎週月曜日、金曜日です。

ご予約は、東北大学病院 肝胆膵外科 TEL:022-717-7740までご連絡下さい。

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