癌があるといわれた方へ

私たちの膵がん外科治療の特徴

・術前治療を取り入れて根治切除を目指します。
・切除不能の患者さんにも切除を目指して化学療法や化学放射線療法を行います。
・他の診療グループと力を合わせて、動脈や門脈の切除・再建を行い、総合外科として高度な外科治療を提供します。

●膵がんと診断されるまで

1.症状
膵臓は胃の裏側(背中側)にあり、横の長さが14-16cmぐらいあります。膵臓は右側から頭部、体部、尾部の3つの部位に分けられ、がんができる部位で症状が異なるという特徴があります(図 )。
初発症状としては、腹痛、黄疸、腰痛や背部痛、体重減少などがあり、約4分の1の患者さんは、膵がんと診断される半年前から腹部の違和感があるといわれています。約80%は頭部から発生し、約20%は体部や尾部から発生します。頭部に発生するがんでは、膵頭部の中を通る胆管が狭くなり胆汁の流れが悪くなることで、皮膚や白眼が黄色くなる黄疸という症状が出ることが多いです。一方で、体部や尾部に発生するがんでは腹痛を約90%に認めます。頭部のがんの方が黄疸を伴いやすいため体部や尾部のがんに比べ早めに発見される傾向にあります。腰や背中の痛みで見つかる場合もあります。
これらの症状がなくても、治療中の糖尿病の悪化や糖尿病の診断時に膵がんが発見されることがあります。

2.検査
・最終的には組織学的診断を!
膵がんが疑われた場合、超音波検査やCT、MRI、PETといった画像検査が行われます。それらの画像検査で膵がんが疑われた場合、組織学的確定診断のために、超音波内視鏡による針生検(EUS-FNA)や、胆管あるいは膵管の細胞診が行われます。
膵がんでは、組織学的に膵がんと診断(顕微鏡でがん細胞を確認)されてから治療を開始することが望ましいため、膵がんが疑われ当科を受診された患者さんで、組織診断が得られていない方は、消化器内科に紹介してEUS-FNAなどの検査をお願いしています。

●膵がんと診断されたら

・切除可能性分類に基づいた治療(表 )
CTの画像所見から、切除の可能性について「切除可能」、「切除可能境界」、「切除不能」のどれに該当するかを検討し、その切除可能性分類に基づいて治療を行います。

切除可能膵がんは、術前化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)を6週間行った後に手術を行うことが勧められています。当科が中心施設となり行った全国規模の臨床研究で、切除可能膵がんは、診断されたらすぐに手術をするのではなく術前治療を行ってから手術をした方が治療成績が良いということが分かりました(http://www.surg.med.tohoku.ac.jp/society/prep02_asco-gl2019.html )。 

切除可能境界膵がんにおいても、まずは化学療法や化学放射線療法を行い、その後に治療効果を評価したうえで手術を行うことがすすめられています。切除可能境界膵がんは門脈系静脈への進展によるものと主要動脈への進展によるものに分けられますが、当科では門脈系静脈への進展を認める患者さんに対しては化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)を行った後に手術を行っております。一方で、主要動脈へ進展を認める患者さんには、最初に化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を4ヶ月程度行った後、化学放射線療法(S-1併用放射線療法)を約1ヶ月半行い、その後に手術を行う方針としております。

切除不能膵がんと診断された場合は、化学療法や化学放射線療法を行います。遠隔転移がみられない場合(局所進行切除不能膵がん)、化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を6ヶ月程度行い、治療効果が良好で切除できる可能性があると判断された患者さんには、化学放射線療法(S-1併用放射線療法)を約1ヶ月半追加し、その後に切除(コンバージョン手術)することを積極的に目指しています。遠隔転移がある患者さんには、化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を行いますが、比較的少数個の転移数であった場合は、化学療法の治療効果によっては切除を検討することもあります。

・審査腹腔鏡による術前遠隔転移の検索
以上のように、切除可能性分類に従って治療を行いますが、膵がんでは手術で開腹した時に、術前の検査では分からなかった微少な転移が発見されることがしばしばあります。そこで私たちは治療開始前や手術の2-3週前に審査腹腔鏡を行い、お腹の中に微少な転移がないか検索してから手術を行うようにしています。大きな傷で試験開腹になることを避けられるメリットがあります。

●膵がんの手術(2000年~2018年の手術症例数)
1.膵頭十二指腸切除術(337例)手術:膵頭十二指腸切除術

頭部にがんがある場合に行います。

2.膵体尾部切除術(132例)手術:膵体尾部切除術

体部や尾部にがんがある場合に行います。最近は腹腔鏡での切除も行っています。

3.膵体尾部切除・腹腔動脈幹合併切除(45例)

体部や尾部にがんがあり、総肝動脈や腹腔動脈へ進展している場合に行います。

4.膵全摘出術 (61例)

膵臓の広範囲にがんが進展している場合に行います。

血管合併切除・再建を要する場合、以下の術式を併施します。

1.肝動脈合併切除再建術
2.門脈合併切除再建術

●術後の治療:術後補助化学療法を

病巣を切除した後にS-1内服による術後補助化学療法を6ヶ月ほど行うことが勧められます。副作用でS-1の内服が難しい患者さんにはゲムシタビン点滴による術後補助化学療法が勧められています。

●当科における膵癌の切除成績

当科の治療成績を示します。2010年から2018年に切除した患者さん378名を対象として解析すると、2年生存率62%、3年生存率45%、5年生存率28%の治療成績です。

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