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その他の食道疾患

食道アカラシア

 食道アカラシアとは、「下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害」と定義されている病気です。10万人に1人程度にみられる比較的まれな疾患です。食道と胃の間には下部食道括約帯(Lower esophageal sphincter; LES)という部分があり、通常レス(LES)と呼ばれています。レス(LES)は普段は閉じており胃の内容物が食道に逆流するのを防ぐ働きをしています。食べ物を飲み込むと正常では食道は上から下に向かって順序良く動いて食べ物を運び、食道下縁まで来るとレスが緩んで食べ物がスムーズに胃の中に流れていきます。このレスが緩む機能が障害されたり、食道が上から下へ食べ物を運んでいく動きが障害されたのが食道アカラシアです。

症状;食べ物がうまく胃の中に流れないため、ほとんどの患者さんで食事のつかえる感じがあります。食道の中に食べ物が残ってしまうのでそれが逆流して口や鼻から食べものが出たり、寝ているときに逆流すると夜間咳嗽としてみられることがあります。食道の筋肉が過度に収縮したりすると胸痛を感じることもあります。

検査;食道アカラシアは内視鏡検査だけでは診断することが難しいため、診断がつくまでに数年かかることもあります。なかには心因性の病気と誤診されていることもあります。以下に食道アカラシアの診断のために必要な検査を示します。
バリウム透視検査:食道の拡張、食道と胃の境目が狭く屈曲している、バリウムの胃の流れが悪いなどの所見がみられます。屈曲の程度や食道の拡張の程度でアカラシアの重症度が分けられています。
内視鏡検査:食道の拡張などがありますが、食道アカラシアと診断するのに決定的な所見はありません。そのためアカラシアの確定診断のため必須ではないものの、アカラシアの患者は食道癌発生のリスクが高いといわれており他の食道疾患の検索のためにも必要な検査です。
食道内圧検査:食道アカラシアの確定診断をするために最も重要な検査です。現在はHigh Resolution Manometryという多チャンネルの圧センサーを有する機器を用いて食道内圧を詳しく調べます。内圧検査では食道アカラシアは、レス圧が高く食事が通る時もレス圧が下がらないというように観察されます。また食道の動きが悪いことも圧の変化から見ることが出来ます。High Resolution Manometryを用いることで正確かつ詳しく食道アカラシアの診断をすることができまし、食道アカラシアの類似疾患であるその他の食道運動機能障害の病気との区別などにも非常に有用な検査です。

治療;食道アカラシアに対する主な治療法は4つあります。
薬物療法:カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬などLES圧を下げるための薬を飲んでもらいます。アカラシアに伴う痛みを抑えることにも使われます。
バルーン拡張術:風船のようなものを食道と胃の境の最も狭い部分で広げて拡張します。バルーン拡張術の有効率は66-93%と高く、また繰り返して行えるなどの利点があります。食道が裂けて穴があいてしまう危険があったり、若い人には有効性が低いことなどの欠点があります。
外科的治療;腹腔鏡下Heller-Dor手術が標準的な外科的治療となっています。この手術は食道の筋層を切開する手術(Hellerの筋層切開術)と、逆流防止のために胃の一部を食道に巻き付ける(Dorの逆流防止手術)ふたつの要素からできています。以前は開腹で行われていましたが、現在は鏡視下で行うことが一般的となっています。当科でも1999年から同手術の鏡視下手術を導入し、現在まで45例の腹腔鏡下Heller-Dor手術を行っています。2012年からは整容性を高めるために単孔ポートを併用し身体に開ける穴の数を従来の5~6カ所であったものを、現在は2カ所にまで減らして行うことができるようになっています(写真12)。また手術後は翌日から飲み水と食事をすることができ、手術をしてから退院までは4日前後です。比較的若年者に対して手術を行うことが多いため、入院期間が短い事や傷が小さく体の負担が少ないことは早い社会復帰に貢献できると考えています。
経口内視鏡的筋層切開術(POEM(ポエム):Per-Oral Endoscopic Myotomy);近年急速に普及している新しい治療法で、昭和大学江東豊洲病院の井上晴洋教授が世界に先駆けて開発した治療法です。現在までに国内で1000名以上の患者さんに治療を行い、非常に優れた効果を挙げています。当院でも2015年よりこの治療法を取り入れ、非常に優れた効果を挙げています。経口内視鏡を用いて治療するため腹部に傷がつくことはなく患者様ご自身にかかる肉体的負担はひじょうに低くなっています。入院から退院までの期間は1週間弱です。また2016年4月より先進医療から保険収載治療となり、患者様にとってはより負担が少なく治療を受けていただくことができます。POEMを受けられる医療機関は国内で数施設と限られますので、アカラシアが疑われた方は当科へご相談ください。
写真12 アカラシア手術後の傷痕
 青矢印が臍の2.5㎝の傷、赤矢印が5mmの傷です。臍の傷は2.5㎝とやや大きめですが、臍の中に隠れてしまうため、術後しばらくするとほとんど分からなくなります。

特発性食道破裂

 食道の圧が上がることにより、食道が裂ける病気です。食道や胃の内容物(食べ物や消化液が混じったもの)が縦隔や胸腔内に漏れるために縦隔炎や膿胸を起こします。縦隔とは左右の肺と背骨、胸骨に囲まれた部分で縦隔の中には心臓や気管など重要な臓器が密集しています。そのために縦隔炎になると炎症が肺や心臓に波及するために、非常に重篤なになります。そのため以前は食道破裂の死亡率は30-40%と言われていましたが、現在は抗生剤や全身管理の進歩などから10%程度まで下がりました。原因は嘔吐などによる急激な腹腔内圧上昇と考えらています。症状は急に胸の痛みが起こり、呼吸困難を伴います。急に胸の痛みが起こるため心臓疾患などと間違えられることもあります。
治療は基本的には手術です。発症から時間が経つと全身状態が悪くなり手術に伴う合併症が増えるので、早期診断と迅速な手術が大切です。当科では食道破裂に対しては基本的には胸部と腹部の操作を行います。胸部では胸の中に漏れた食残や消化液を大量の水でよく洗い裂けた食道の壁を縫い合わせます。腹部の操作では食道壁の縫合を追加したり、食道の壁を縫うだけでは強度が弱いので胃の一部分を覆い被せるように縫い付けたり、大網というお腹の中の脂肪で縫合部を覆うようにしたりして補強を行います。また食事を再開するまで時間がかかることもあるため、腸瘻と言って腸から栄養を与えることができる管を腸の中に入れる手術も行います。

胃食道逆流症

 胃食道逆流症は胃酸が食道に逆流することにより、胸やけなどの症状や食道粘膜がただれて炎症を起こしてしまう病気です。英語ではGastroesophageal Reflux Diseas: GERDですのでGERD(ガード)と呼ばれます。
胃食道逆流症はほとんどの場合、胃酸を抑える薬(H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤)で治療することができます。しかし内科的治療の効果がない場合は手術をします。胃から食道への逆流を抑えるために、食道と胃の境に胃を巻き付ける手術をします。アカラシアの手術の際に逆流防止のために行う噴門形成術を同じで、内視鏡で行うことができます。アカラシアの際に行う噴門形成術と違うのは、胃食道逆流症の方が逆流をさらに防止するために、胃を巻き付ける量が多い事です。アカラシアの場合は食道の壁の4分の1周程度に胃を巻き付けるとしたら、胃食道逆流症の場合は4分の3周から全周性に胃を巻き付けます。

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乳腺内分泌外科

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