震災後の当科活動報告
東北関東大震災発災後の肝胆膵外科・胃腸外科としての対応
平成23年4月5日現在
東北大学病院 肝胆膵外科 / 胃腸外科 医局長 内藤 剛
3月11日
午後2:46地震発生
東北大学病院災害対策本部立ち上げ
1.臨時医局の開設・移動
発災後医学部2号館8階の医局は書棚等が倒壊し業務遂行、安全確保が困難であったため、東8階病棟SGT室を臨時医局として稼働すべく、コンピューター等を移動した。
2. 医局員・事務員・同門会員の被災状況と安否確認(4月5日現在)
医局員においては発災時医学部2号館・東8階病棟・東13階病棟・外来診察室・中央手術室で業務従事中であったが全員無事に避難し、怪我人等の連絡はなし。事務センター秘書らは倒壊した本棚で廊下が塞がり締め出されたが、窓から脱出し無事に避難することができた。
旧第一外科同門会(丙辰会)会員では津波の影響で石巻市立病院が被災、石巻市立病院医師9名(伊勢秀雄病院長、神山泰彦検診センター所長、森安章人内科部長、内山哲之外科部長、兒玉英謙外科副部長、村田幸生外科副部長、大石英和医員、益田邦弘医員、土屋朗之医員)と連絡が取れなかったが後日無事が確認された。また気仙沼市では「猪苗代病院」平間義之先生、「光が丘保養園」鈴木謙三先生が被災され連絡が取れなかったが後日無事が確認された。開業された先生では「ささはら総合診療科」笹原政美先生、「鳴瀬中央医院」斎藤隆之先生、斎藤雄康先生、「閖上クリニック」溝井賢幸先生、「山本医員」山本伸一先生が津波により医院が被災されたが無事が確認された。
石巻市立雄勝病院長 狩野研次郎先生は残念ながら津波の犠牲になられお亡くなりになられました。謹んで哀悼の意を表しご冥福をお祈り申し上げます。
医局員で院外に出張中であったものは以下の通りであり無事が確認された。
研究会出席のため熊本滞在中
- 海野 倫明 教授
- 片寄 友 准教授
- 白崎 圭一 大学院生(仙台空港にて自家用車被災)
学会出張のためポルトガル渡欧中
- 柴田 近 准教授
研究会出席のため千歳空港移動中
- 内藤 剛 講師(仙台空港にて自家用車被災)
- 鹿郷 昌之 院内講師
研究助成贈呈式出席のため東京出張中
- 坂田 直昭 助教
施設見学のため高知出張中
- 渡辺 和宏 特任助手
出張のため学外病院勤務中
- 元井 冬彦 院内講師
- 吉田 寛 助教
- 林 洋毅 助教
- 水間 正道 助教
- 生澤 史江 医員
- 北村 洋 院生
- 藤川 奈々子 院生
- 小松 弘武 院生
- 高野 成尚 院生
- 三浦 孝之 院生
- 土師 陽一 院生
- 梶原 大輝 院生
- 堂地 大輔 院生
- 染谷 崇徳 院生
3. 東北大学病院災害対策本部
発災時より東北大学病院災害対策本部が設置され、肝胆膵外科江川新一准教授が、患者割振・医師派遣業務に当たり、3月13日に帰仙した海野倫明教授がその後の業務を引き継ぎ、被災地への医師派遣業務を担当した。災害対策本部会議には力山敏樹前医局長・内藤剛新医局長が常時参加した。
4. 関連病院被災状況確認
- 石巻市立病院
津波により被災、病院機能停止。再開の見通したたず。 - 石巻市立雄勝病院
津波により被災、病院機能停止。再開の見通したたず。 - 東北厚生年金病院
地震により構造柱の一本が損傷したが鉄骨が無事であったため復旧可能。現在修復工事中。 - 仙塩総合病院
津波により被災、病院機能停止。現在復旧作業中。 - 仙台医療センター
地震により院内配管損傷し病床一部縮小。現在は復旧。
5. 東北大学救命救急センターへの医師派遣
3月11日発災後より当院救急部からの要請を受け、救急外来トリアージの緑・黄色担当チームとして医局員を派遣。8時間ごとのシフトを組み日中および準夜勤帯は2ないし3人、深夜勤帯は2名体制で支援。3月20日までの9日間のべ53名の医師を派遣した。
5. 他病院・避難所救護班への医師派遣
みやぎ県南中核病院は発災後急増した救急外来患者さんへの対応を常勤医師で行っていたが、対応しきれなくなってきたとのことで3月15日に応援要請あり。翌3月16日より24時間交代、1名ないし2名で4月3日まで応援医師を派遣した。のべ人数は29名であった。ガソリン事情が悪く大学病院災害支援車両での送迎を要した。
避難所の救護班は東北大学病院として医師・看護師・薬剤師らでチームを組んで主に石巻、気仙沼、市内若林区に派遣していたが、当科では3月16日より3月20日まで石巻地区、3月17日には若林地区にそれぞれ7名、4名を派遣した。
4月3日までののべ派遣医師数は87名であった。写真は3月17日の石巻大街道周辺の様子。
7. 被災地域からの患者受け入れ
発災後石巻地区、気仙沼地区で救急患者の急増に伴い、石巻赤十字病院、気仙沼市立病院から当院に多数の患者受け入れ要請があり、各診療科で受け入れを行った。また東北厚生年金病院では地震に伴い病院建物の損壊が激しく病棟を閉鎖せざるを得なかったため、入院患者の搬送要請があり、これも受け入れを行った。
各地域からの搬入患者数は以下の通り。
- 東北厚生年金病院 :10名
- 石巻赤十字病院:10名
- 気仙沼市立病院:9名
- その他の地域:3名
合計32名。
8. 発災後手術対応
発災後手術室のある中央診療棟の配管が損傷し手術室の機能が一時的に麻痺したため、3月21日までは緊急手術のみの対応となった。3月22日以降は通常手術も少ないながら再開され、4月4日以降は通常時の90%程度の件数をこなせるようになった。
発災後4月3日までに施行した手術症例数は、胃腸外科18件、肝胆膵外科9件の計27件であった。そのうち緊急手術例は胃腸外科11件、肝胆膵外科は2件であった。胃腸外科の緊急手術例のうち、1例は発災直後の3月11日夜に施行した外傷性小腸穿孔・腹膜炎手術症例であり、発災後早期の3月14日から18日までに7例の緊急手術を施行した。肝胆膵外科は緊急手術例の2例は3月22日以降であったが、通常手術が再開された3月22日から4月3日までに拡大肝右葉切除術1例、膵頭十二指腸切除術2例を施行した。日本肝胆膵外科学会愛の手プロジェクトに4月1日から参加し肝胆膵高難度外科手術の受け入れ可能を表明した。
9. 医局復旧作業
(4月5日現在の報告)
3月14日午後より医学部2号館の立ち入りが可能となり、3月15日より医局内の整理を開始した。倒壊した棚などで部屋の入口や通路が塞がれていたが、医局員の総力をあげて元に戻し、3月18日までに各部屋間の移動が自由にできるようになった。3月22日からは、特に被害の大きかった実験室周辺の整理を開始。各研究室や事務センター,集会室の片付けも進み、電気,通信も最低限復旧したことから、徐々に東8階病棟SGT室から医学部2号館8階へと機能を戻した。事務センターの書庫など、特に損壊の激しい箇所の復旧では、専門業者への委託も行った。4月5日より医局行事を元の集会室で再開した。余震は頻回であるが、今のところ復旧作業中の事故はなく、安全に行えている。多くの医局機能が復旧したものの、実験室(病理室,培養室を含む)は機器類の破損が特に甚大で、医局内での実験再開のめどは立っていない。
10. がん患者受け入れ
被災地域での抗癌剤治療を中断した患者を対象に、主に石巻地区から4月5日現在約13名のがん患者の紹介を受け、今後の治療を当院が中心となって継続することとした。
写真は震災後の医局内の様子