膵臓に病気があると言われた方へ

膵臓とは?

膵臓イラスト

膵臓は胃の裏側にある臓器であり、おなかの右側から左側にかけて横方向に広がる臓器になります。
膵臓には大きく分けて二つの役割があります。一つは外分泌機能であり、消化酵素の一つである膵液を産生します.膵液は食べ物の消化に必要であり、これが欠乏することで、体に必要な栄養の吸収障害が出現します。

もう一つは内分泌機能と呼ばれる役割であり、主に血糖値の管理を行っております。
膵臓はインスリンと呼ばれる血糖値を下げるホルモンを出す臓器であり、その機能が低下することで糖尿病を引き起こす場合があります。

   
   

癌があるといわれた方へ

私たちの膵がん外科治療の特徴
  • 術前治療を取り入れて根治切除を目指します。
  • 切除不能の患者さんにも切除を目指して化学療法や化学放射線療法を行います。
  • 他の診療グループと力を合わせて、動脈や門脈の切除・再建を行い、総合外科として高度な外科治療を提供します。  
 

膵がんと診断されるまで

1.症状

膵臓の図
(図)
膵臓は胃の裏側(背中側)にあり、横の長さが14-16cmぐらいあります。膵臓は右側から頭部、体部、尾部の3つの部位に分けられ、がんができる部位で症状が異なるという特徴があります(図 )。
初発症状としては、腹痛、黄疸、腰痛や背部痛、体重減少などがあり、約4分の1の患者さんは、膵がんと診断される半年前から腹部の違和感があるといわれています。約80%は頭部から発生し、約20%は体部や尾部から発生します。頭部に発生するがんでは、膵頭部の中を通る胆管が狭くなり胆汁の流れが悪くなることで、皮膚や白眼が黄色くなる黄疸という症状が出ることが多いです。
一方で、体部や尾部に発生するがんでは腹痛を約90%に認めます。頭部のがんの方が黄疸を伴いやすいため体部や尾部のがんに比べ早めに発見される傾向にあります。腰や背中の痛みで見つかる場合もあります。
これらの症状がなくても、治療中の糖尿病の悪化や糖尿病の診断時に膵がんが発見されることがあります。
  
 

2.検査

最終的には組織学的診断を !  
膵がんが疑われた場合、超音波検査やCT、MRI、PETといった画像検査が行われます。それらの画像検査で膵がんが疑われた場合、組織学的確定診断のために、超音波内視鏡による針生検(EUS-FNA)や、胆管あるいは膵管の細胞診が行われます。
膵がんでは、組織学的に膵がんと診断(顕微鏡でがん細胞を確認)されてから治療を開始することが望ましいため、膵がんが疑われ当科を受診された患者さんで、組織診断が得られていない方は、消化器内科に紹介してEUS-FNAなどの検査をお願いしています。

 

膵がんと診断されたら

切除可能性分類に基づいた治療(表)

CTの画像所見から、切除の可能性について「切除可能」、「切除可能境界」、「切除不能」のどれに該当するかを検討し、その切除可能性分類に基づいて治療を行います。

【膵癌における切除可能性分類】
切除可能(Resectable):R  
切除可能境界(Borderlineresectable):BR
  • BR-PV(門脈系への浸潤のみ)
  • BRA(動脈への浸潤あり)
切除不能(Unresectable):UR
  • UR-LA(局所進行)
  • UR-M(遠隔転移あり)

切除可能膵がんは、術前化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)を6週間行った後に手術を行うことが勧められています。
当科が中心施設となり行った全国規模の臨床研究で、切除可能膵がんは、診断されたらすぐに手術をするのではなく術前治療を行ってから手術をした方が治療成績が良いということが分かりました。
(参考:https://www.surg.med.tohoku.ac.jp/society/prep02_asco-gl2019.html

切除可能境界膵がんにおいても、まずは化学療法や化学放射線療法を行い、その後に治療効果を評価したうえで手術を行うことがすすめられています。
切除可能境界膵がんは門脈系静脈への進展によるものと主要動脈への進展によるものに分けられますが、当科では門脈系静脈への進展を認める患者さんに対しては化学療法(ゲムシタビン+S-1併用療法)を行った後に手術を行っております。
一方で、主要動脈へ進展を認める患者さんには、最初に化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を4ヶ月程度行った後、化学放射線療法(S-1併用放射線療法)を約1ヶ月半行い、その後に手術を行う方針としております。

切除不能膵がんと診断された場合は、化学療法や化学放射線療法を行います。
遠隔転移がみられない場合(局所進行切除不能膵がん)、化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を6ヶ月程度行い、治療効果が良好で切除できる可能性があると判断された患者さんには、化学放射線療法(S-1併用放射線療法)を約1ヶ月半追加し、その後に切除(コンバージョン手術)することを積極的に目指しています。
遠隔転移がある患者さんには、化学療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用やFOLFIRINOX療法)を行いますが、比較的少数個の転移数であった場合は、化学療法の治療効果によっては切除を検討することもあります。
 

審査腹腔鏡による術前遠隔転移の検索

以上のように、切除可能性分類に従って治療を行いますが、膵がんでは手術で開腹した時に、術前の検査では分からなかった微少な転移が発見されることがしばしばあります。
そこで私たちは治療開始前や手術の2-3週前に審査腹腔鏡を行い、お腹の中に微少な転移がないか検索してから手術を行うようにしています。大きな傷で試験開腹になることを避けられるメリットがあります。
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膵がんの手術(2000年~2018年の手術症例数)

1.膵頭十二指腸切除術(337例)(手術:膵頭十二指腸切除術)

手術:膵頭十二指腸切除術 

頭部にがんがある場合に行います。
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2.膵体尾部切除術(132例)

手術:膵体尾部切除術  
体部や尾部にがんがある場合に行います。最近は腹腔鏡での切除も行っています。
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3.膵体尾部切除・腹腔動脈幹合併切除(45例)

体部や尾部にがんがあり、総肝動脈や腹腔動脈へ進展している場合に行います。
 

4.膵全摘出術(61例)

膵臓の広範囲にがんが進展している場合に行います。
血管合併切除・再建を要する場合、以下の術式を併施します。
  1. 肝動脈合併切除再建術
  2. 門脈合併切除再建術
 

術後の治療:術後補助化学療法を

病巣を切除した後にS-1内服による術後補助化学療法を6ヶ月ほど行うことが勧められます。副作用でS-1の内服が難しい患者さんにはゲムシタビン点滴による術後補助化学療法が勧められています。

 

当科における膵癌の切除成績

当科の治療成績を示します。2010年から2018年に切除した患者さん378名を対象として解析すると、2年生存率62%、3年生存率45%、5年生存率28%の治療成績です。
膵癌の切除成績

 

袋のようなもの(嚢胞)があるといわれた方へ

膵管内乳頭上粘液腺腫

1. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは

いわゆる“膵臓がん”以外に、膵臓には、嚢胞とよばれる袋状の構造物を伴う“嚢胞性膵腫瘍”とよばれる腫瘍があります。そのなかでも、粘液をたくさん産生する”膵管内乳頭粘液性腫瘍”とよばれるものが最も多いとされており、英語表記の頭文字をとって”IPMN”と略されます。
膵臓の中にある膵液の流路(膵管)から発生し、中心の太い膵管内に充満するように発育するタイプ(主膵管型, 図1)、細い膵管がブドウの房状に嚢胞をつくって発育するタイプ(分枝型)の2種類があります(図2)。

このIPMNは、“膵臓がん”よりも比較的おとなしい(予後のよい)腫瘍とされています。膵管の壁をつくる上皮細胞から発生し、良性の状態から粘液を出しながらゆっくり発育し、やがて膵管内で悪性に変化していきます。さらに進行すると膵管の壁を超えて“浸潤がん”に至ります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
 

2. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の手術適応

膵がんの前がん病変、ともいわれるIPMNですが、実はかなりゆっくり発育することが知られており、長い経過の中で全てのIPMNが“浸潤がん”に至る訳ではありません。
まず精密検査を受けて頂き、総合的に良性の可能性が高い場合は経過観察となります。
悪性の疑い、または悪性と診断された場合のみ手術による切除が推奨されます。良悪性にかかわらず、豊富な粘液が原因で膵炎を起こす場合があり、その際にも膵炎の治療という意味で手術が必要になります。
 

3. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の手術

“膵臓がん”に準じて、膵切除と領域リンパ節郭清が標準術式となります。しかしながら、浸潤の可能性が低く、病変の広がりが比較的限局している一部の症例に対してはリンパ節郭清の縮小、または腹腔鏡手術を行っています。
手術中術中迅速組織診断を行い、膵臓の切除範囲を決定しています。
 

4. 当教室の特徴

世界発となる「IPMN国際診療ガイドライン」は2006年度にここ仙台で誕生し、別名「仙台ガイドライン」ともよばれております。
現在は改訂されておりますが、当教室ではこれまで300例近いIPMN切除を行い、豊富な治療経験を有しています。消化器内科や病理科と連携しつつ、患者さんごとに病変の進行度を詳細に把握した上で、過不足ない切除を心がけています。

 

粘液性嚢胞腫瘍(MCN)

中年女性に好発する疾患です。特異的な症状などはなく、検診などで偶然発見されることが多いとされております。MCNは悪性の可能性があるため、診断がついた場合には手術をお勧めさせていただいております。

 

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

中年女性に好発する疾患です。基本的には良性疾患でありますが、時に巨大化することがあります。
大きさが4cmを超えますと悪性化しやすいという報告もあることから、そのような場合は手術をお勧めさせていただいております。
また、腫瘍の増大により圧迫症状や腫瘍内出血をきたすことがあり、そのような場合も手術の適応とさせていただいております。

 

癌に似たような腫瘍があるといわれた方へ

膵内分泌腫瘍(p-NEN)について

P-NENとは

膵臓にできる腫瘍の代表は膵臓癌ですが、それ以外にも様々な腫瘍が発生します。
その中の一つ、膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic Neuroendocrine Neoplasm : P-NEN)は、ホルモンを産生する細胞から発生する腫瘍です。産生されるホルモンによって、インスリノーマやガストリノーマなどと呼ばれることもあります。
形は同じですが、ホルモンを産生しないタイプのP-NEN(非機能性神経内分泌腫瘍)もあります。ゆっくりと大きくなるものもあれば、転移をするような悪性の経過をたどるものもあり、しっかりとした診断が必要になります。(当院のP-NEN治療数の年次推移のグラフを挿入)
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近年内視鏡を用いた手術数が増加しつつあります
 

WHO分類

P-NENは腫瘍の顔つきによって分類されます。
この分類によって治療方針を決定していきます。

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LCNEC: large cell neuroendocrine carcinoma, MINEN: mixed neuroendocrine-non-neuroendocrine neoplasm, NEC : neuroendocrine carcinoma, NET: neuroendocrine tumour, SCNEC: small cell neu- roendocrine carcinoma
(WHO Classification of Tumours Editorial Board, ed. WHO Classification of Tumours, 5th ed. Vol.1, Di- gestive System Tumours. World Health Organization, 2019. p.16より引用)

 

症状

インスリノーマ:低血糖症状による発汗、震え。意識障害やけいれんを起こすこともあります。ガストリノーマ:治りにくい胃潰瘍や逆流性食道炎、下痢など。
一方、ホルモンを産生しないものでは症状が出にくいため、たまたま検査で見つかることもあります。
 

検査

CT検査やMRI検査、超音波内視鏡検査などが行われます。
ソマトスタチン受容体シンチ(Somatostatin Receptor Scintigraphy : SRS) : NEN診断に特化した検査です。
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腫瘍部位に一致し集積が認められる
 

手術

非常に小さな腫瘍の場合は厳重な経過観察を行うこともありますが、治療の基本は手術療法になります。
腫瘍が発生した場所によって、膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術、膵部分切除術などを行います。
手術:膵臓手術術式  
 

その他の治療

癌とは異なり、通常の抗がん剤が効きにくい腫瘍です。P-NENに対して効果のある薬を組み合わせて治療を行います。
最近では放射線治療(核医学治療;Peptide Receptor Radionuclide Therapy : PRRT)も保険収載され治療の幅が広がりつつあります。
 

遺伝?

遺伝のものとそうでないものとがあります。
遺伝疾患である多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)やvon Hippel-Lindau病(VHL)に合併することが知られています。遺伝性のP-NENは治療法も異なってきます。
確定診断には遺伝子検査が必要になります。
 

最後に

非常に稀な病気であり、診断がなかなかつかないこともあります。
当院では消化器内科、腫瘍内科とともに診断 から手術・薬物治療まで行なっています。まずはこの病気を疑うことから始まりますので、是非ご相談ください。

 

充実性偽乳頭腫瘍(SPN)

20~30代の比較的若年女性に好発。特異的な症状などはなく、検診などで偶然発見されることが多い。
10%程度に悪性例が見られるとの報告もあり、手術を勧める。

 

膵臓の炎症を繰り返してしまう方へ

急性膵炎

(1)急性膵炎について

急性膵炎は、突然起こる膵臓の炎症であり、アルコールや胆石などが原因でおきます。症状は腹痛で発症することが多く、重症化するとショックや敗血症などを合併して、命の危険があります。点滴や鎮痛剤の投与にて加療を行いますが、重症例では高度医療のできる病院へ転院して集中治療を行うことが必要となります。
 

(2)急性膵炎の外科治療

以前は、急性膵炎に対して膵床ドレナージや開腹ネクロセクトミーが行われていましたが、現在は内視鏡的治療を中心とし、より低侵襲な治療から開始するステップアップアプローチが主体となり、外科手術が行われることは少なくなりました。
経皮的ドレナージからのステップアップとして、Video-Assisted Retroperitoneal Debridement(VARD)や、内視鏡的アプローチ、経皮的アプローチが困難な場合にネクロセクトミーを行う場合があります。
 

(3)患者さんへ

急性膵炎は、内視鏡的・経皮的ドレナージを主体としてステップアップアプローチによる治療が行われます。
VARDやネクロセクトミーといった外科手術の経験がある施設は数多くありません。外科手術の適応や術式についてはお困りの場合には、当科にご相談いただけますようお願いします。

 

慢性膵炎

(1)慢性膵炎について

慢性膵炎とは、正常な膵臓組織が脱落して、慢性的な線維化が生じることで、膵臓自体の機能が徐々に失われていく病気です。
原因は飲酒がもっとも多く、その他胆石性・特発性(原因不明なもの)が挙げられます。
慢性膵炎の症状は腹部・背部痛などの疼痛が初期の症状ですが、病状が進行すると膵臓機能が低下し、消化吸収障害に伴う体重減少、下痢や、膵内分泌機能荒廃に伴う糖尿病の悪化が高頻度で見られます。
 

(2)慢性膵炎の外科的治療

慢性膵炎の治療は、禁酒、禁煙を行い、腹痛などの症状に対する薬物療法などが治療の中心になります。膵管に狭窄や膵石などの所見がある場合は、内視鏡によるステント留置や体外衝撃波結石破砕術を行うことがあります。
薬物治療・内視鏡治療による病状のコントロールが困難な場合、外科的治療が行われます。

慢性膵炎の手術は、①膵液の流出障害により主膵管の拡張が見られる場合に膵液のドレナージを目的とした、膵管減圧術と、②炎症が強い部位を切除して除去する、膵切除術の2つに大きく分けられます。
  1. 膵管減圧術
    びまん性に膵臓の石灰化を認め、主膵管拡張が見られる場合などが適応となります。膵管減圧術としては、長軸方向に膵管を切開して、尾部から頭部にかけて小腸と側々吻合するPartington手術、膵頭部に炎症性腫瘤が見られたり膵石が存在した場合には上記の膵管空腸側々吻合術に加えて膵頭部の部分切除(=芯抜き)を付加するFrey手術が挙げられます。慢性膵炎診療ガイドラインでは、Frey手術が第一選択となっており、当科では本邦で初めてFrey手術を施行し、日本最大の症例数を有しています。
  2. 膵切除術
    膵管狭窄の程度や部位によって(幽門輪温存)膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術を施行することがあります(膵手術)。
    この場合、膵腫瘍に対する手術に準じますが、膵機能温存等の観点から、また手術侵襲が大きいので①の術式で対応できな場合や、悪性腫瘍の合併を疑うとこなどに施行されます。

手術によって、疼痛の軽減や膵機能進行防止などの効果が見られます。特に疼痛に関しては8割以上の方で効果があるとされています。
手術適応を十分に検討した上で施行すれば、非常に有効な治療法と言えます。
ただし、手術を行っても慢性膵炎を根治させることはできないため、食事栄養療法や薬物療法、禁酒といった内科的加療の継続は必須です。
 

(3)患者さんへ

慢性膵炎は、比較的珍しい疾患であり、外科手術の経験がある施設は多くありません。
そのため、手術適応や手術術式の判断がつかず、手術のタイミングを逃してしまうことが少なくありません。また、膵管減圧術やFrey手術が適当である症例に対して、膵切除術が選択される場合もありえます。
外科手術の適応や術式についてはお困りの場合には、当科にご相談いただけますようお願いします。
膵管減圧術