食道外科
食道悪性疾患(食道癌)、良性疾患(食道裂孔ヘルニア、食道アカラシア など)の手術や内視鏡治療を中心に食道疾患全般の診療を行なっております。
食道癌
食道とは
食道は胸の中心を縦に走っており、前方では気管・気管支・心臓と、後方では脊椎(背骨)と、両脇は左右の肺と接しています。
また、大動脈とも接していますので、生命維持に大切な各臓器と隣接しているといえます(図1)。
前後から見ても、左右から見ても胸のほぼ真ん中にあります。

食道癌
食道癌は、食道の内側をおおっている粘膜から発生します。発病の原因は不明ですが、喫煙や飲酒と関係が深いと考えられています。男性に多い癌(男女比は5 : 1 )です。これを「他臓器転移」といいます。
肝臓、肺、骨、などが他臓器転移しやすいところです。
また、癌が食道壁内のリンパ管に入り込むと、リンパ液の流れに乗って「リンパ節転移」をおこします。食道周囲、胃の周囲、首の付け根、腹部の奥のリンパ節などが転移しやすいリンパ節です(図2)。食道癌は他の癌に比べて早期にリンパ節転移を来しやすい癌です。

食道癌の症状
初期には、“食道がしみる”感じを訴える患者さんもいますが、全く無症状の場合がほとんどです。癌が大きくなってくると、食事が、“つかえる感じ”の症状がでてきます。さらに大きくなると、癌が食道を塞いでしまうために、“食物、水が通らなくなり”、唾液も飲み込めずに吐きだすようになります。また、癌が食道の外に広がって肺や心臓、背骨を圧迫すると、“胸の奥や背中の痛み”を感じるようになります。
気管や肺に広がると“咳・たん”や、“かすれ声”などの症状がでることがあり、大動脈に直接浸潤すると大出血をおこすこともあります。
診断・検査法
食道癌に対して適切な治療法を選択するためには、食道癌の大きさ・深さ・場所や、リンパ節転移、他臓器転移を正確に診断する必要があります。そこで、下記の検査を適宜行います。ただし、現在の画像診断には限界があり、癌の他臓器直接浸潤や転移が描出されないこともあります。
- 上部消化管内視鏡(食道胃カメラ)
食道癌の大きさ・深さ・形の診断をします。特殊な波長の光で癌組織を的確にとらえたり、ヨード液を散布することで癌部、非癌部を正確に判定することができます。
組織検査(顕微鏡による癌細胞の確認) のために組織を採取することも行います。 - 上部消化管造影 (バリウム検査)
バリウムを飲んでいただき、食道、胃を流れるバリウムをレントゲン撮影する検査です。食道癌の大きさ・深さ・形・場所の診断をします。 - CT (頚部~骨盤)
X線を使って身体の断面を撮影する検査です。食道癌の大きさ・食道外 の広がり、リンパ節転移、他臓器転移の診断をします。 - PET検査
身体の各組織のブドウ糖代謝を画像にする検査です。癌組織は他の組織よりもブドウ糖を多く必要としていて、活発に代謝しています。
特別に標識したブドウ糖を注射した後に、CTを撮影することによって、癌の位置や転移部位を描出します。この検査は、数値情報が出るので、治療効果の判定にも利用します。 - MRI検査
食道の近くに胸管という太いリンパ管が走行しています。稀に通常と異なる走行をしていることがあるため、手術を行う方は、手術前に胸管の走行を把握する目的でMRI検査を行なっております。 - その他の検査
頚部・腹部の超音波検査、超音波内視鏡、骨シンチなども必要に応じて行います。
病期(ステージ)
病期とはがんの進行の程度を示す言葉です。病期にはローマ数字が使われ、0~IVに分類され、数字が大きいほどがんが進行していることを意味します。病期は、がんがどの程度深くまで及んでいたか(T因子)(図3)、リンパ節転移の程度(N因子)、遠隔転移の有無(M因子)で決まります(表1、2)。
前述の検査を行って、病期を決定し、病期分類に基づき治療法を決定します。

図3:腫瘍の深さの分類(T因子)
| T因子 (がんの深さ) |
T1a | がんが粘膜内にとどまる |
|---|---|---|
| T1b | がんが粘膜下層にとどまる | |
| T2 | がんが固有筋層にとどまる | |
| T3r | がんが食道外膜に浸潤しているが他臓器浸潤は否定的 | |
| T3br | がんが食道外膜に浸潤し他臓器浸潤が否定できない | |
| T4 | がんが他臓器に浸潤している | |
| N因子 (リンパ節転移) |
N0 | 領域リンパ節転移がない |
| N1 | 1〜2個の領域リンパ節転移がある | |
| N2 | 3〜6個の領域リンパ節転移がある | |
| N3 | 7個以上の領域リンパ節転移がある | |
| M因子 (遠隔転移) |
M0 | 遠隔臓器転移を認めない |
| M1a | 郭清効果の期待できる領域外リンパ節に転移を認める | |
| M1b | M1a以外の領域外リンパ節、遠隔臓器に転移を認める |
日本食道学会編 「臨床病理食道癌取扱い規約(第12版)」(金原出版)より一部改変
| N0 | N1 | N2-3, M1a | M1b | |
|---|---|---|---|---|
| Т0-Т1а | 0 | II | IIIА | IVB |
| Т1b | I | II | IIIА | IVB |
| T2 | II | IIIА | IIIА | IVB |
| Т3r | II | IIIА | IIIА | IVB |
| T3br | IIIВ | IIIВ | IIIВ | IVB |
| Т4 | IVA | IVA | IVA | IVB |
日本食道学会編 「臨床病理食道癌取扱い規約(第12版)」(金原出版)より一部改変
治療法
1.食道癌の治療方法
各種検査の結果から癌の進行度(ステージ0~4 )や全身状態を総合的に判断して、個々の患者さんに最適な治療法を決定します。実際には以下の治療法を、組み合わせて行います。2.各ステージごとの治療方針の概略
1.ステージ0、 Iの治療方針(図4)腫瘍の深さが浅く(粘膜固有層まで)、病変の広がりが小さければ(3/4周未満)、内視鏡治療(内視鏡的粘膜下層剥離術)の適応となります。
内視鏡治療の適応とならない場合は、食道切除手術、化学放射線療法の治療の選択肢がありますが、治療効果は同等と考えられており、全身状態や患者様のご希望に応じて選択していただいております。

図4:食道がんの治療法の選択(0期・I期)
2.ステージII、 IIIの治療方針(図5)
ステージII、IIIの進行食道癌に対しては、手術のみでは予後不良であるため、化学療法も組み合わせて行います。
術前化学療法と術後化学療法を比較した臨床試験では、術前化学療法の方が、予後が良好であったため、術前化学療法(5-FU シスプラチン療法)を2サイクル行なった後に切除手術を行うことが標準治療として確立されております。
また、術前化学療法+手術には及びませんが、化学放射線療法でも根治が得られる可能性もあり、手術が難しい場合や、希望されない場合の治療の選択肢となります。

図5:食道がんの治療法の選択(II期・III期)
3.ステージIVの治療方針(図6)
遠隔転移を伴わない場合(ステージIVa)は、化学放射線療法で根治が得られる可能性があります。
遠隔転移を伴う場合(ステージIVb)では、根治を目指した治療は困難なことが多く、全身化学療法の適応となります。
食道が癌で詰まってしまった場合は緩和照射(食道の開通を目的とした放射線治療で根治を目指した治療ではありません)や、食道ステント留置(金属の網でできた筒状のものを狭くなった部分に留置して食事が通過できるようにする治療)などを行うこともあります。

図6:食道がんの治療法の選択(IVa期・IVb期)
3.それぞれの治療法の解説
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
食道癌が粘膜の浅い部分(粘膜固有層まで)にとどまっている場合には、リンパ節転移や他臓器転移はほとんどありません。
そのため、「治療としては癌だけを切除すれば十分である」と考えられます。内視鏡的粘膜下層剥離術とは、粘膜のがんを内視鏡(食道胃カメラ)をつかって、食道の内側から切りとる治療法です(図7)。
通常は内視鏡室で行いますが、手術の一種です。当院では消化器内科、総合外科で治療を行なっております。
内視鏡的粘膜下層剥離術は、小さなものでは1~3時間ぐらいで終わりますが、広範囲におよぶ病変や、部位によっては5~6時間かかることもあります。
術後は、翌日の内視鏡検査で問題がなければ食事を開始します。
切除部位(食道) の痛み・しみる感じはありますが、しだいに軽快し、順調に経過した場合は、治療後7~10日程度で退院できます。後述する合併症が起きたり、治療の経過によっては、入院期間が延長することがあります。
内視鏡的粘膜下層剥離術では、多くの場合(後述する狭窄や穿孔などの合併症がなければ)では、食道がもとの形で残るので治療前と同様の生活ができます。
合併症としては、切除部分からの出血、食道穿孔(食道に孔があいてしまう)、肺炎などがあります。
いずれも保存的に治療をおこないますが、まれに手術が必要となることもあります。また、切除範囲が広い場合には、切除部分が瘢痕となって収縮してしまい、食道が狭くなる可能性があります。これには内視鏡を用いた拡張術(食道バルーン拡張術)で対処します。
内視鏡的粘膜下層剥離術で切除した組織はホルマリン固定し、癌の広がりを顕微鏡で詳しく検査します。
まれに、癌細胞が粘膜の深い部分や粘膜を越えた層(粘膜下層)におよんでいるのが発見されることがあります。この場合は、癌細胞が食道の外側のリンパ節に拡がっている可能性があるため、さらに外科手術や化学放射線療法を追加治療として行う必要があります。
また、放射線治療後にがんが残ってしまった場合や、再発してきた場合も、可能であれば、この ESDを行って、食道切除術をせずに治療を行うことがあります。

図7:ESDの手技 - 切除手術( +術前化学療法)
切除手術は、食道癌を完全に取り除き、食物の通り道を確実に確保することを目標にしています。
前述のようにステージII、IIIの進行癌の場合、手術の効果を高めるため、術前化学療法(5FU シスプラチン療法 ドセタキセル)を2~3コース行なった後に切除手術を行っております(図8)。

図8:術前化学療法から手術までの治療スケジュール
手術では癌を含めて食道のほとんどを切除します(食道亜全摘)。同時に転移している可能性のあるリンパ節を含む周囲の組織と胃の上部を切除します(リンパ節郭清)。
食道を切除した後に、胃を管状に細長く形成して(胃管と呼びます)、首まで持ち上げて、残った食道とつなぎ、食物の通る道を再建します(図9)。
胃が使用できない場合は、大腸や小腸を使って再建を行うこともあります。手術は全身麻酔で行い、約8~10時間ほどかかる大手術となります。
当科では手術が身体に与える負担を軽減するために、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた傷の小さい手術を標準術式とし、可能な患者さんには積極的に行っています(図10)。

図9:手術のイメージ

図10:食道癌手術の創部
手術後は、後述する合併症がなく順調に経過すれば、通常7日目から食事を開始し、2週間ほどで退院できる程度まで回復します。
合併症としては、術後出血、肺炎、縫合不全(食道と胃のつなぎめのほころび)、反回神経麻痺(かすれ声)、不整脈、心不全、乳糜胸(リンパ液の漏れ)などがあります。術後合併症が発生した場合は、合併症に対する治療が必要となり、長期絶食が必要となったり、入院が長期化することがあります。
まれに 術後合併症から全身状態が悪化し、死に至る場合があります(全国統計で1-2%程度)。
手術前から糖尿病や肝臓、心臓、肺などの他の臓器に障害・病気をもっている人では、術後合併症の発生率が高くなります。また、喫煙をしていると手術後の喀痰が増加し、手術後に肺炎を合併するリスクが高くなるため、術前の禁煙をお願いしております。
手術後は、手術により食物の通り道を作り変えるので、その新しい構造に慣れる必要があります。食道の代わりに持ち上げた胃管は、胃としての食べ物を貯めておいたり、消化する働きが失われるため、食事の食べられる量が少なくなり、ほとんどの方で体重が減少します。
そのため、手術後は、「よくかんでゆっくり食べる」、「食事の回数を増やす(間食)」といった食事の摂り方を身につけていただき、これからずっと実践していただく必要があります。
また、胃の入り口には、胃の内容物を食道へ逆流しないようにする働きがあります。この部分も手術で切除してしまうため、胃(胃管)内容の逆流が起こりやすくなり、逆流性食道炎を起こすこともあります。
個人差はありますが、胃酸を抑える薬の内服や、「食後にすぐに横にならない」「頭を高くして寝る」などの生活上の工夫が必要となります。
手術後の生活については前述のような食事や生活習慣の注意が必要となりますが、それ以外は特に制限はありません。
手術後の体力の回復には個人差もありますが、術後に仕事に復帰された方や、趣味の山登りやゴルフなどを楽しまれている方も多数いらっしゃいます。
- 化学放射線療法(化学療法+放射線療法)
化学放射線療法は、放射線治療と、治療効果を高めるための化学療法を組み合わせた治療法で、当院では放射線治療科で治療を行なっております。機能や形態を温存することをめざした治療で、本来の食道・喉・胃を温存することができる治療です。
根治が期待できる治療法ですが、化学放射線療法の効果には個人差が大きく、事前に治療効果を予測する確実な方法はありません。
放射線照射は1日1回、1回あたり15~30分で終了し、これを週に5日(月~金の平日)おこない、約6週間つづけます。この放射線治療期間中に第1週目と第5週目に、化学療法(5-FU シスプラチン療法)を並行して行います。
治療期間中の副作用としては、嚥下時の違和感、日焼けに似た症状、白血球減少、倦怠感、吐き気、食思不振などがあります。
また、稀ですが、食道癌が消失することにより食道穿孔や穿通などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
治療が終了してから数ヶ月後~数年後におこりうる副作用(晩期障害)があります。
具体的には、肺炎(放射線による引き起こされる肺炎として“放射性肺臓炎”とよばれます)や胸水貯留(肺の周りに水が溜まる)、心囊液貯留(心臓の周りに水が溜まり心臓の機能が低下する)、甲状腺機能低下が起きることがあります。また、食道癌が存在した部位が細くなる(食道狭窄といいます)ことがあります。
晩期障害は全ての患者さんに見られるわけではありませんが、重篤になった場合に特別な治療をおこなうことがあります。
- 放射線単独療法
放射線単独療法は化学療法を併用せず、放射線治療のみで行う治療です。
放射線単独療法は化学放射線療法と比べて副作用は少ないですが、食道がんを根治する可能性は低く、がんが一度小さくなったとしても、生き延びてしまったがん細胞が再び増殖し大きくなってくる可能性が高い治療です。癌を完全に治すことをめざして放射線治療をする場合は、可能であれば、放射線療法と化学療法を同時に行うことが勧められます。
放射線単独療法は、(1)手術や化学放射線療法ができないほど体力が低下した場合や、(2)すでに癌が離れた臓器に転移しており根治的な治療はできないが、「食道癌のため食道の通りが悪い」という症状を緩和させるために行う場合があります。
- 化学療法(抗がん剤治療)
化学療法は、抗がん剤の点滴注射や内服を行う治療法です。
化学療法単独で行われる場合と、放射線療法と併用で行われる場合(化学放射線療法)や、手術の効果を高める目的で、手術の前、あるいは手術の後に期間を決めて行う場合(術前、あるいは術後補助化学療法)とがあります。当院では化学療法単独で行う場合は腫瘍内科で、化学放射線療法を行う場合は放射線治療科で、手術前に行う場合は総合外科で治療を行なっております。
単独で行われる化学療法は、体力がなく手術や化学放射線療法ができない方や、血流に乗って癌細胞が食道と離れた場所(肝臓、肺など)に転移した方に行われます。
化学療法単独で食道癌を治すことは難しく、治療効果は切除手術や化学放射線療法に比べて芳しいものではありません。
化学療法の効果については個人差があり、また腫瘍の種類によっても差があり、一部の症例では抗がん剤がまったく効かない、という場合もあります。
食道癌の治療に用いられる抗がん剤には、5-FU、シスプラチン、ネダプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、ニボルマブなどがありますが、最もよく行われているのは、5-FUとシスプラチンの併用療法です。この療法では、シスプラチンを1日目に点滴し、5-FUを24時間持続で1日目~5日目まで連続して点滴します。
この際に腎臓の障害を防ぐための点滴を化学療法開始前日より行いますので、1回の治療で1週間程度の入院が必要です。これが1回分の治療で、2週間ほどの休みをおいてもう1回行い、効果があればさらに繰り返すこともあります。 - テロメライシンによる食道癌治療
東北大学病院 食道外科では、新しい食道癌治療「テロメライシン」による治療を行っています
東北大学病院 食道外科では、2026年に日本で新たに承認された食道癌治療薬「テロメライシン®注(一般名:スラタデノツレブ)」による治療を行っています。テロメライシンは、食道癌に対して使用される国内初の腫瘍溶解ウイルス製剤です。2026年6月8日に製造販売承認を取得し、同年8月21日に発売された新しい治療法です。
従来、食道癌の治療では、手術、化学放射線療法、化学療法、放射線療法、内視鏡治療などを、癌の進行度や患者さんの全身状態に応じて選択してきました。テロメライシンは、これらとは異なる新しい作用機序によって癌細胞を攻撃する治療法であり、根治切除(手術)や化学放射線療法を行うことができない食道癌患者さんに対する新たな治療選択肢となります。- テロメライシンとは?
- どのような食道癌がテロメライシンの対象になりますか?
その中で、
・ 手術による根治切除が適応とならない
・ 化学放射線療法を行うことが適切でない
と判断された患者さんが、テロメライシンによる治療の対象となる可能性があります。実際にテロメライシンが適応となるかどうかについては、食道癌の専門医が病気の状態や全身状態を詳しく評価した上で判断します。- テロメライシンはどのように治療するのでしょうか?
(治療例)

適正使用ガイドより- テロメライシン治療の特徴
テロメライシンは、静脈から全身に投与するのではなく、内視鏡を用いて癌病変に直接注入します。
2.癌細胞の中で増殖するウイルスを利用する
テロメライシンは、癌細胞内で増殖するように設計されたウイルス製剤です。
癌細胞内でウイルスが増殖することで、癌細胞を破壊することが期待されています。
3.放射線療法と組み合わせて治療する
テロメライシン単独ではなく、放射線療法と併用して治療を行います。
4.食道癌に対する新しい治療選択肢
2026年に国内で承認された新しい治療法であり、これまで治療選択肢が限られていた患者さんに対する新たな治療選択肢として期待されています。
- 治療を受ける際の注意点
テロメライシンは新しい治療法であり、すべての食道癌患者さんに適応できるわけではありません。
また、治療に伴って発熱、血球減少などの副作用が生じることがあります。まれではありますが、食道穿孔などの重大な副作用にも注意が必要です。
そのため、テロメライシンは、食道癌および上部消化管内視鏡診療について十分な知識と経験を有する医師が、適切な診療体制の整った医療機関で使用することが定められています。
治療を検討する際には、テロメライシンによる治療のメリットだけでなく、治療に伴うリスクや、手術・化学療法・放射線療法など他の治療選択肢についても十分に説明した上で、患者さんと一緒に治療方針を決定します。
- 東北大学病院 食道外科でのテロメライシン治療
東北大学病院 食道外科では、食道癌に対する手術、化学放射線療法、薬物療法、内視鏡治療などを組み合わせた集学的治療を行っています。
食道癌は、腫瘍の位置や進行度、患者さんの全身状態によって最適な治療法が大きく異なります。
当科では、食道癌を専門とする外科医、消化器内視鏡医、放射線治療医、腫瘍内科医などが連携し、患者さん一人ひとりの病状に応じた治療方針を検討しています。
テロメライシンについても、「テロメライシンを投与すること」だけを目的とするのではなく、手術を含めた複数の治療選択肢を比較した上で、患者さんにとって適切な治療であるかを検討します。
テロメライシンによる治療が適応となる可能性がある患者さんについては、当科で詳しく検査・評価を行い、治療についてご説明します。
- テロメライシンによる治療をご検討の方へ
「手術が難しいと言われた」
「食道癌に対する放射線治療について相談したい」
「新しい食道癌治療について詳しく知りたい」
「テロメライシンによる治療が自分に適しているか知りたい」
という患者さんは、まず当院の食道外科へご相談ください。
他院で食道癌の治療を受けている患者さんについても、紹介状や画像検査などの情報をもとに、治療の適応について検討いたします。
テロメライシンが適応となるかどうかは、癌の進行度、腫瘍の位置・大きさ、全身状態、これまでの治療内容などを総合的に判断して決定します。
- テロメライシン®注について
一般名: スラタデノツレブ
製品分類: 再生医療等製品(遺伝子発現治療製品)
承認日: 2026年6月8日
効能・効果又は性能: 根治切除及び化学放射線療法の適応とならない食道癌
投与方法: 放射線療法との併用において、上部消化管内視鏡下で腫瘍内投与
通常の投与回数: 約2週間間隔で計3回(5-6週間の入院を想定しています)※上記は2026年9月現在の承認内容に基づく情報です。実際の治療については、最新の添付文書および最適使用推進ガイドラインに基づいて判断します。
4.遺残や再発時の治療法
食道がんの根治を期待して、内視鏡的粘膜下層剥離術や、切除手術、化学放射線療法を行なっても、がんが残ってしまったり(遺残)、一度は癌が消失してもがんが再度出現する(再発)可能性があります。その場合の治療法について説明します。再発時の治療法は最初に行なった治療の方法によって異なりますが、最初にいずれの治療を行なったとしても、肺や肝臓など離れた臓器に再発(遠隔転移再発)がおきた場合は、手術や化学放射線療法などによってがんを根治させることは難しいことが多く、化学療法を行うことが一般的です。
- 内視鏡的粘膜切除後の遺残や再発時の治療
内視鏡的粘膜下層剥離術で切除した組織はホルマリン固定し、癌の広がりを顕微鏡で詳しく検査します。
まれに、癌細胞が粘膜の深い部分や粘膜を越えた層(粘膜下層)におよんでいるのが発見されることがあります。この場合は、癌細胞が食道の外側のリンパ節に残っている可能性があることから、さらに外科手術や化学放射線療法を追加治療として行う必要があります。
また、治療後の局所再発(もともとの食道がんがあった場所への再発)や食道近傍のリンパ節への再発の場合は、根治を期待して切除手術や化学放射線療法を行います。
- 切除手術後の遺残や再発時の治療
手術前には取りきれると判断しても、予想以上にがんが進行していて、手術ではがんを取りきることができず遺残してしまうことが稀にあります。
微小な遺残であれば、根治を期待して術後に化学放射線療法を追加で行うことがあります。
また、術後の局所再発(もともとの食道がんがあった場所への再発)やリンパ節への再発の場合は、切除手術や化学放射線療法によって、治癒が期待できる可能性があります。しかし、一度手術を行うと、手術した場所は、周囲の臓器との癒着を起こすことから、切除手術は周囲臓器を損傷してしまうリスクが高く、完全に切除することが難しいことから、化学放射線療法を行うことが多いです。 - 化学放射線療法後の遺残や再発時の治療
化学放射線療法ではトータルで約 60グレイという線量がかかりますが、これは人間が受けられる放射線量の最大量に近いものです。
化学放射線療法を受けられた方は、同じ部位に再度放射線照射を行うことはできません。残念ながら化学放射線療法が成功しなかった場合(癌が残ってしまった場合や治療後に再発した場合)、根治をめざす次の手段として食道切除術を行うことがあります。
これはサルベージ手術と呼ばれますが、通常の手術よりも手術手技は難しくなり、またさまざまな合併症も多くなります。放射線が食道および周囲組織に影響を与えているためで、慎重に行う必要があります。
また、サルベージ手術ができない場合でも、がんの再発が食道のみ(リンパ節再発や遠隔転移再発がない)で、がんの深さが筋層までの場合は、内視鏡を用いたレーザーを照射する治療(光線力学療法 PDT)が可能なこともあります。
PDTは、光感受性物質(特定の波長のレーザーに反応する)を注射し、食道胃カメラを用いて食道癌にレーザー光を当てて、食道がんを死滅させる新しい治療法で、日本では“化学放射線療法後の再発食道癌”のみが適応となっております。
光感受性物質を注射するため、患者さんは厳しい”遮光制限”(強い光を避ける)が必要となり、2週間弱の入院で治療を行なっております。平成27年より保険適応となりましたが、当院では平成28年より導入し、可能な方には積極的に行なっております。
当科の診療実績
| 食道切除手術 | ESD | PDT | |
|---|---|---|---|
| 2012年 | 62 | 14 | 0 |
| 2013年 | 61 | 17 | 0 |
| 2014年 | 63 | 19 | 0 |
| 2015年 | 69 | 19 | 0 |
| 2016年 | 54 | 17 | 0 |
| 2017年 | 66 | 15 | 6 |
| 2018年 | 67 | 15 | 9 |
| 2019年 | 78 | 29 | 8 |
| 2020年 | 59 | 15 | 7 |
| 2021年 | 54 | 15 | 5 |
| 2022年 | 72 | 22 | 12 |
逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニア
逆流性食道炎とは
逆流性食道炎は食の欧米化や肥満人口の増加により.本邦でも増加している病気です.
主な症状は胸焼けや胸の痛み,すっぱい水があがってくる感覚などは挙げられます.
炎症の程度によって重症度が分類されます.
背景には食道裂孔ヘルニアといって,食道と胃の移行部が胸の方へ移動している状態が背景にあることが多いです.
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食道裂孔ヘルニア
横隔膜の隙間を食道が通過し,腹部の胃に移行しますが,横隔膜の隙間が広がっている状態が食道裂孔ヘルニアです.
右の図のように胃カメラを反転させて胃の入り口(=噴門部)を観察すると,食道裂孔ヘルニアでは胸の方に胃が移動している状態がよくわかります.
肺を膨らますために引っ張る力が胸ではかかるので,胃酸が食道の方へ引っ張られてしまい,逆流性食道炎の原因となると考えられています.
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食道裂孔ヘルニアの種類
逆流性食道炎の治療はまずは制酸剤といって胃酸の刺激を低くする薬を内服してもらいます.内服でよくならない場合は,内視鏡手術や外科手術が治療選択肢となります.
食道裂孔ヘルニアのうち,食道と胃の境界部(=食道胃接合部)が胸の方へ偏位しているものを滑脱型,胃の上部の膨らみの部分(=穹窿部)が偏位しているものを傍食道型,食道胃接合部と穹窿部がともに偏位しているものを混合型食道裂孔ヘルニアと分類しています.
内視鏡手術は主に滑脱型の食道裂孔ヘルニアに適応となります.程度の強い滑脱型,傍食道型,混合型の食道裂孔ヘルニアは外科手術の適応となります.
当科は両方の治療が対応可能ですので、検査結果に応じて患者様に合わせた最適な治療を選択します.
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内視鏡手術
内視鏡手術はARMS(Anti Reflux Mucosal Section)という手術術式です.食道胃境界部の胃粘膜を切除して治るときに粘膜が厚くなって治る原理を利用して逆流を防ぐ方法です.
Aは治療前でヘルニアがあります。BCは治療中の画像で、Bでは胃の粘膜を剥離して人工的に潰瘍を作成した図です。Cは潰瘍をクリップで閉鎖した後です。Dは治療2か月後の図で、潰瘍が治ることによってヘルニアが改善しています。
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内視鏡を用いた手術で体表に傷はできませんが,全身麻酔での治療が必要なので手術室で治療が行われます.
手術前日に入院し,手術を行います.手術は通常1-2時間かけて行います.翌日の検査で問題がなければ水分の摂取,順次食事が開始され通常術後4日目が退院の目安です.
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外科手術(腹腔鏡手術)
外科手術は腹腔鏡というカメラを用いて行う方法をとります.腹腔鏡,細い手術器具を10mm程度の創部から挿入し,腹部に二酸化炭素ガスを充満させてお腹を膨らませて手術を行います.横隔膜の隙間を通常の大きさに縫い合わせ補強し,胃を食道に外側から巻きつかせて食道胃接合部を逆流しづらい構造に形成します.巻き方によって1周胃を巻きつかせるNissen法,約3/4周巻きつかせるToupet法があります.
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手術前日に入院いただき,全身麻酔下での手術を行います.術中,術後の傷の痛みを緩和するために硬膜外麻酔という方法を併用して行う場合が多いです.手術時間は約3-4時間を要します.翌日の検査で問題がなければ水分が開始となり,適宜食事を開始していきます.退院の目安は術後5日前後です.
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胃食道逆流症(GERD)・食道裂孔ヘルニアでお悩みの方へ
「胸やけが続く」「酸っぱいものがのどまで上がってくる」「げっぷが多い」「食後に胸やみぞおちが苦しい」などの症状はありませんか。
こうした症状の原因として、胃食道逆流症(GERD)や食道裂孔ヘルニアが関係していることがあります。
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで、胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)などを起こす病気です。人によっては、のどの違和感、咳、声のかすれなどの症状として現れることもあります。
食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜を越えて胸の方へ入り込んだ状態です。軽い場合には症状がないこともありますが、ヘルニアが大きくなると胃酸が逆流しやすくなったり、食べ物がつかえる感じや胸の不快感を生じたりすることがあります。
治療は、まず生活習慣の見直しや胃酸を抑えるお薬を使用することが一般的です。しかし、お薬を飲んでいても症状が続く方や、大きな食道裂孔ヘルニアがある方では、別の治療方法を検討することがあります。
当科では、内視鏡検査をはじめ、必要に応じて胃酸や胃内容物の逆流を詳しく調べる検査を行い、症状の原因をできるだけ丁寧に確認します。
そのうえで、患者さんの症状や食道裂孔ヘルニアの大きさ、検査結果、ご希望などを考慮しながら、薬による治療だけでなく、**内視鏡による治療(ARMS)や腹腔鏡による逆流防止手術(LARS)**なども含め、一人ひとりに合った治療方法を一緒に考えていきます。
「薬を飲んでいるけれど、なかなか症状がよくならない」
「長く薬を飲み続けることが心配」
「手術が必要なのか知りたい」
「できるだけ体への負担が少ない治療を受けたい」
このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
胃食道逆流症や食道裂孔ヘルニアは、症状や病態が患者さんによってさまざまです。当科では、十分な検査とご相談のうえで、それぞれの患者さんに適した治療をご提案します。
食道アカラシア
食道アカラシアとは
食道アカラシアは、大変めずらしい病気で10万人に1人から2人とされています。患者さんの少なさから、診断がつきづらく長い間、苦労される方もいます。初めのうちは、胸痛のため心臓の病気と思い心臓の検査を受けても異常なしとされたり、次につかえ感のため上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受けても、特に異常なしとされることが多いです。
症状が進行してきて、体重減少や、誤嚥性肺炎などを発症し、CT検査などで食道の拡張を指摘され、初めて食道アカラシアを疑われることも多いです。

原因
食道アカラシアの原因未だはっきりしたことはわかっていません。迷走神経という、胃のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋)を開閉するための神経が障害されるという説がありますが、なぜ障害されるかなど完全には解明されてはいません。遺伝的要因がある説と、欧米人にこの病気が多いことから、食生活の欧米化によるものという説もあります。
診断方法
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
食道内に大量の食残(胃に流れていかない食べ物)や、泡を伴った液体を大量に認める。
食道から胃に入る部分が狭くなっている。などの所見を認めます。 - 食道透視検査
バリウムを飲んでいただき、食道から胃にバリウムが流れていくか確認します。また、食道がどの程度拡張しているか、食道が屈曲していないかなども同時に確認します。
食道アカラシアの患者さんは食道が拡張していたり、屈曲していることがあります。 - 高解像度食道内圧検査(HRM:High Resolution Manometry)
食道の動きと食道と胃がつながる部分の開き具合を確認します。この検査が確定診断となります。
鼻から胃まで専用のカテーテルを挿入し、数回にわたり少量の水を飲んでいただきます。 - CT検査(断層撮影)
食道内に食残を認めたり、食道内に液体が貯留している像が見られます。
また食道が高度に拡張(通常より太くなる)したり、屈曲している像がみられることもあります。
治療方法
大きく内科的治療と外科的治療に分かれます。下部食道括約筋がうまく開閉できず、主に閉まり続けているためこの筋肉を開いてあげることが治療となります。
内科的治療
- 薬物療法(降圧薬)
一部の降圧薬(血圧を下げる薬)には下部食道括約筋を緩める作用があり、内服することで症状が緩和する場合があります。
もともと血圧が正常な方は、低血圧となってしまい、適応とならない場合もあります。 - 内視鏡的バルーン拡張術
アカラシア専用のバルーン(風船)を用いて、狭くなった下部食道括約筋を広げて流れを改善させます。
特に若い方は効果が短期間しかもたないことが問題として挙げられます。
外科的治療(全身麻酔が必要となります)
- POEM(経口内視鏡的筋層切開術) 図2
胃カメラで食道の粘膜に穴をあけて、下部食道括約筋肉を切開して広げる治療です。
新しい治療方法ですが、日本で開発され、現在世界中に広く普及している治療法です。
効果も高く、食道アカラシアに対する治療法の主流となりつつあります。当院でも2015年より導入しています。

- 腹腔鏡下手術(Heller-Dor手術)
POEMが普及する前まで、主流だった治療法です。
ポートと呼ばれる穴(あな)を腹部に数か所開け、そこから内視鏡(カメラ)と鉗子と呼ばれる道具を使用して手術を行います。腹部側から下部食道括約筋を切開し広げます。